ナルトビエイが食べたアサリやバカガイの殻
飼育試験中のナルトビエイ
大分の海と温暖化    〜大食漢のナルトビエイ〜

 前回紹介したように、2006年のナルトビエイによるバカガイの被害は約3,600d、7億円と推定されます。本来熱帯から亜熱帯にかけて生息するこのエイは生態が分かっていません。そこで大分県農林水産研究所センター水産試験場浅海研究所(浅海研究所)で飼育観察を試みました。
 同年7月に宇佐市沖で採捕した小型のナルトビエイ二匹を浅海研究所に運び、約4カ月間、陸上の水槽で飼育しました。ナルトビエイは飼いにくいと事前に聞いていましたが、幸い、餌のアサリをよく食べ、観察するうちに次のことが分かりました。
 摂餌行動はまず、吻(ふん)部(頭のとがった部分)を砂の中に突っ込みながら、かなりの勢いで貝を探ります。貝をくわえると砂から顔を出し、泳ぎながら上下の洗濯板のような顎歯(がくし)で貝をパチンとかみ割ります。この時、水中では貝の割れる音が聞こえることもあります。割れた貝殻はちょうつがいを付けたままのものも多く、このエイに食べられた跡を示す特徴と言えます。
 飼育した2匹の重量は、合わせて約4`と小型でしたが、毎日、体とほぼ同量の殻付きアサリを食べるほどの大食漢でした。しかし、秋も深まり、水槽の水温が15度前後になった11月中旬、餌をぱったり食べなくなり、下旬には2匹とも死んでしまいました。この結果は来遊時期の水温が17度以上ということとおおむね一致します。
 エイの大きさなどの条件は異なりますが、飼育試験と同じようにナルトビエイが二枚貝を食べるとすると、2006年に駆除したナルトビエイ(重量計41d)だけでも、1日に41d、10日間で410d、豊前海にいる5カ月間に6,000dもの二枚貝を食べる可能性があります。
 この年に食べ尽くされたことが確認されたバカガイの量3,700dも当たり前の量と考えられます。駆除した割合が全体に対してどの程度か分かりませんが、当然、全体ではさらに多くの二枚貝を食べており、被害は計り知れません。
 さて、駆除などの対策は本年度も実施することになりますが、このエイの来遊がいつまで続くのか、毎年恒例になるのか、現段階では分かりません。
 駆除以外に、浅海研究所は隣県と情報交換しながら生態などを調査しています。さらに、有明海の事例を参考にアサリ放流漁場に網を張ったり、鉄筋やFRP(繊維強化プラスチック)の細い棒を立てるなどして、エイが漁場内に立ち入れない、あるいは餌を食べることができないような対策を実施しています。ただ、これらの作業は人海戦術のため、規模拡大ができず、作業が干潮時に限られるといった制約があります。
 さらに、バカガイのように潮がひかない海域の貝類(トリガイ、ミルクイ、アカガイ、タイラギなど)を守る手段は、現状では皆無といってもいいのではないでしょうか。ナルトビエイを寄せつけなくするために、彼らが嫌がる物質や、電磁パルス発生装置などの開発などが早急に望まれます。
 残念ながらナルトビエイによる被害について、対策は緒についたばかりで、解決の見通しは付いていないのが現状です。
 次回はこれまで紹介した磯焼けやアコヤガイの赤変病、今回のナルトビエイの例をもとに、問題をまとめます。
(西日本新聞 平成19年6月30日刊に掲載)